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成年後見制度のしくみとご利用方法

第1章 成年後見制度について

 1 成年後見制度とは

   成年後見制度とは、加齢による認知症、知的障害、脳梗塞や交通事故などによる高次脳機能障害、統合失調症など精神的疾病により、判断能力が十分でない方(「ご本人」といいます。)の権利や財産を守るための制度です。

   例えば、定期預金の解約、生命保険金の受領、不動産の売買などを行なうには、その手続きをすることによって、自分がどのような利益や不利益を受けるのか十分理解している必要がありますが、ご本人がこうした判断ができないか、判断能力が十分でない場合、ご本人に代わって判断したり、財産を管理したり、援助したりする人を決めるのが成年後見制度です。

   成年後見制度は、任意後見制度と法定後見制度に分類されます。

   任意後見制度とは、将来、判断能力が不十分になったときに備えて、あらかじめ支援してくれる人と「契約」する制度です。ご本人と後見人となる方が「契約」を交わすのですから、ご本人が任意後見制度を十分に理解しており、契約できる能力がある状態でなければなりません。任意後見制度は、自分の将来の不安を事前に取り除く契約であり、その契約は公正証書によらなければなりません。当職をはじめ後見制度に関して十分に理解を得ている行政書士がこの契約を交わす上でアドバイスをさせていただいております。

   一方、ご本人が、認知症などですでに判断能力が不十分になってしまっている状態にある場合には、法定後見制度を利用することになります。法定後見制度の利用の申立てを希望されるお客さまには、法定後見制度の趣旨をご説明させていただいた上、弁護士や司法書士をご紹介いたします。

   法定後見制度は、医師の診断や家庭裁判所の鑑定などをもとに、ご本人の判断能力の程度によって、3段階に分類されています。

  (1)後見 ご本人に判断能力が全くないか、判断能力が欠けているのが通常である場合。

  (2)保佐 ご本人の判断能力が著しく不十分な場合。

  (3)補助 ご本人の判断能力が不十分な場合。

2 後見について

  (1)ご本人の判断能力が欠けているのが通常の状態である場合、すなわち、普段自分の行為の結果について合理的な判断ができない状態にある場合には、「後見」の対象となります。具体的には、日常必要な買い物も自分一人ではできず、誰かに代わって行なってもらう必要がある程度の方です。

   なお、一時的に調子が良くなり正常な判断ができたとしても、正常な判断ができない方が普通の状態である場合には、「後見」の対象となります。

  (2)ご本人の判断能力が「後見」の対象となる場合、家庭裁判所は、「後見開始の申立て」に基づいて後見開始の審判をするとともに、「成年後見人」を選任します。成年後見人は、ご本人(「成年被後見人」といいます。)の身上監護(介護サービスの利用、診療、施設への入退所などの契約、年金の申請などの法律行為を行なうことなど)や、財産管理(預金の出し入れ、不動産の管理、処分など)について、ご本人を代理します。後見人は、被後見人の生活のあらゆる面で支援を行ないますが、日用品の購入や、食事を作ったり部屋を掃除することなどの事実行為、遺言書を書くこと、身柄の引き取りや入院の際の保証人になること、本人の債務の保証、手術の同意、資産運用等は原則として後見人の仕事ではありません。

   なお、成年後見人になったからといって、ご本人の財産が成年後見人のものになるわけではありませんし、ご本人が亡くなった後、当然に遺産を分けてもらえるわけでもありません。

 3 保佐について

(1)ご本人の判断能力が著しく不十分な場合、すなわち、日常必要な買い物程度は自分でできるが、不動産の売買、金銭の貸し借り、相続問題などの処理などの重要な行為について合理的な判断ができない状態にある場合は、「保佐」の対象になります。

(2)ご本人の判断能力が保佐の対象となる場合、家庭裁判所は、「保佐開始の申立て」に基づいて後見開始の審判をするとともに、「保佐人」を選任します。保佐人は、ご本人(「被保佐人」といいます。)が民法13条1項に定める行為をする場合に同意権を持ち、ご本人が保佐人の同意を得ないでした行為については取り消すことができます。ただし、日用品の購入は、取消権の範囲に含まれません。

 保佐人が同意権、取消権を持つ主な行為は次のとおりです。

①預金の払い戻しを受けること

②借金をすること、借金の保証人になること

③不動産や高額な商品を売買すること

④自己の財産を他人に贈与すること

⑤相続の承認、放棄、遺産分割などの相続問題を処理すること

(3)保佐開始の審判によって、保佐人には、同意権、取消権が付与されますが、それだけでは、ある特定の行為をご本人の代わりに行なうことはできません。もし、その必要がある場合は、「代理権の付与」の申立てをする必要があります。被保佐人は、成年被後見人と異なり、一定の判断能力があるので、特定の法律行為についてだけ、裁判所は保佐人に代理権付与の審判をすることができます。ただし、代理権付与の申立てをするには、まず、ご本人の同意が必要になります。また、代理権付与の申立てをしたとしても、必ずしも保佐人の希望する代理権が与えられるとは限りません。

 4 補助について

  (1)ご本人の判断能力が不十分な場合、すなわち、財産の管理、処分は一応自分でできるかもしれないが、念のため、誰かに援助してもらった方が良い場合は、「補助」の対象となります。

  (2)ご本人の判断能力の程度が補助の対象となる場合、家庭裁判所は、「補助開始の申立て」に基づいて補助開始の審判をするとともに、「補助人」を選任します。ただし、後見開始、保佐開始の申立てと異なり、補助開始の申立ては、ご本人以外の方が申し立てる場合、申立て自体にご本人の同意が必要です。「補助」の対象となる方は、一定の判断能力をお持ちですので、ご本人(「被補助人」といいます。)の自己決定権を尊重するため、補助開始の申立てをするにあたって、あらかじめご本人の同意が必要とされています。

  (3)補助開始の申立てをする場合には、「代理権の付与」もしくは「補助人の同意を要する行為の定め」あるいはその両方を同時に申し立てる必要があります。代理権の付与の申立ては、補助人がある特定の行為をご本人の代わりに行なうことができるようにするためのものです。補助人の同意を要する行為の定めの申立ては、補助人が民法13条1項に定める行為の一部について同意権や取消権を持つためのものであり、それ以外の行為について、補助人が同意を要する行為として定めることはできません。なお、いずれの場合においても、ご本人の同意が必要です。

第2章 審理手続きについて

 1 申立てができる人

ご本人、配偶者、4親等(姻族の場合は3親等)以内の親族(親子、兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪、いとこなど)、その他法律で定められた人

 2 申立先

ご本人の住所地の家庭裁判所

 3 提出していただく書類及び申立費用

  (1)提出する書類は当事務所でご用意いたしますが、申立てをされる方に記入をお願いする書類がございます。申立に必要な家庭裁判所に支払う費用については、別途ご説明いたします。

  (2)審理にあたって、ご本人の財産内容を明らかにしていただきます。したがって、申し立ての際にご本人の「財産目録」及び財産関係の資料一式のコピーを併せてご提出ください。

 4 申立ての受付

  申立書及び必要書類が揃いましたら、家庭裁判所に提出します。

 5 審理手続

  (1)受付後の手続きは、調査→鑑定→審判→審判確定→成年後見登記と進みます。東京法務局に登記事項証明書(後見人等であることの証明書)の交付を申請できるようになるまでには、申立ての後、最短でも2週間から1か月ほどかかると見込まれます。現状では、旭川家庭裁判所での申立ての場合、1か月から1か月半以上かかることもあります。

 

   通常、申立書の受付後約1か月以内に、詳しい事情をうかがう調査を実施します。調査の日時は、改めて家庭裁判所調査官から連絡されます。

   調査では、この手続きが必要になったいきさつ、ご本人の生活状況、財産の内容(申立ての際にご提出いただいたコピーと照合しますので、必ず財産関係の資料一式の原本をお持ちください。)、後見人候補者の生活状況、経済状況などを尋ねられます。

(2)審理にあたり、申立てに対するご本人の意向を聴取しなければなりません。調査の際には、できる限り、申立人、後見人候補者及びご本人がそろって行ってください。同伴が困難な場合は、後日、家庭裁判所調査官が病院、施設、ご自宅などを訪問し、ご本人と面会することになります。

(3)成年後見制度は、ご本人を保護するための制度ではありますが、結果としてご本人の権利を制限することになるわけですから、ご本人の精神状況について医師による「鑑定」を行ないます。申立ての際にかかりつけの医師による「診断書」を提出していただきますが、鑑定は、それとは別の手続きです。鑑定の正式な依頼は、後ほど家庭裁判所が行ないます。

   鑑定にかかる費用は、7万円から10万円程度と見込まれます。費用の支払先など、詳しくは、家庭裁判所の担当者から連絡されます。また、簡易な鑑定として3万円程度の場合もありますし、鑑定自体が行なわれないこともあります。鑑定費用は裁判所を通して医療機関に支払われます。

  (4)後見人(保佐人、補助人)に誰を選ぶかは、関係者の意見を聞いた上で、 家庭裁判所が決めます。多くはご本人のご家族や親族が候補者となることを希望し、家庭裁判所に選任されますが、申立人が申立書に記載した人とは別の人が選ばれることがあります。家庭裁判所が必要と判断すれば、後見人(保佐人、補助人)に弁護士や司法書士、行政書士、税理士、社会福祉士などの専門家を選ぶことがあります。その場合の人選は家庭裁判所に一任することになります。専門家を選んだ場合に発生する費用やその後の報酬などは、家庭裁判所によって決定され、ご本人の財産から支出することになります。法定後見の場合、任意後見制度と異なり、原則として家庭裁判所が直接後見人の監督を行ないますが、家庭裁判所が必要と判断すれば、後見人(保佐人、補助人)の仕事の内容をチェックする後見監督人(保佐監督人、補助監督人)を選ぶことがあります。家庭裁判所のこれらの決定に対しては、不服を申し立てることはできません。また、被後見人自身も後見監督人の選任を請求することができます。

(5)後見人(保佐人、補助人)に選任されると、1か月以内に、ご本人の財産の内容を一覧表にした「財産目録」の提出を求められます。

6 留意点

  (1)これまで、後見人等候補者ご自身またはその親族がご本人との間で訴訟や調停をしたことがある場合には、当事務所へご相談いただくときに必ず申告してください。後見人となることができない場合があります。

(2)後見開始の審判があると、ご本人は選挙権及び被選挙権がなくなります(公職選挙法11条1項)。また、後見開始または保佐開始の審判があると会社の取締役になることはできません。

   さらに後見開始または保佐開始の審判があると、医師や弁護士など一定の資格を取得できなくなったり、公務員などの一定の職業に就くことができなくなります。

  (3)成年後見人制度のご利用をお考えになったきっかけは、土地の名義変更、保険金の請求など特定の目的のためであることが多いと思われますが、後見人(保佐人、補助人)に選任されると、その役目は、ご本人の判断能力が回復するか死亡するまで続きます。目的とする手続きが終わったからといって、後見人の役目が終わるわけではありません。

   また、後見人(保佐人、補助人)を辞めるには、家庭裁判所の許可が必要であるとともに、後任の後見人(保佐人、補助人)を選ぶための申立てをしなければなりません。

第3章  後見監督(保佐監督、補助監督)について

1 後見監督(保佐監督、補助監督)とは

(1)家庭裁判所は、後見人(保佐人、補助人)がその職務を適正に行っているかどうか、定期的に、または必要に応じてチェックし、不適当な行為があれば正しく直すことを求めることになっています。これを家庭裁判所による監督といい、それぞれ、後見監督、保佐監督、補助監督といいます。

  (2)具体的には、家庭裁判所から、後見人(保佐人、補助人)に対し、職務内容の報告を求める文書が届きますので、それに記載して返送していただきます。その際に、その時点での財産目録を改めて作成していただき、通帳や預金証書、生命保険の保険証券など、財産関係の資料一式の写しも改めて提出していただきます。

2 不正行為

  ご本人の財産から勝手に借金したり、理由もなく贈与したりすることは、不正行為になります。その場合、後見人等を解任され、全額返済させられます。悪質な場合には、業務上横領等の犯罪行為として刑事上処罰されることがあります。現実に、後見人が被後見人の財産を私的に利用して逮捕されるケースは少なくなりません。このような事態を防ぐためにも、裁判所はかなり詳細な調査を行なうことがあります。

  いずれにしましても、後見制度のご利用を検討なさることは、みなさまの将来の不安を取り除くうえで、現時点で考えられる最もふさわしい手段の一つです。手続きや調査はかなり煩雑ですが、任意後見制度についてお知りになりたい方は、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。